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 メジロアブ

 五万分の一の地図上で、オロロ谷という名前をみつけて驚いた。そこはよほど多いんだろう。オロロとは、あの大群で血を吸いにくるメジロアブのことだ。

 新潟の三国川、ダムができる前の十字峡で一週間ばかりキャンプをしたことがある。そこはオロロ谷という名前ではないが、それでも十分すぎるオロロがいて、だいぶ献血をした。水の中にとびこんでも、頭の上で顔をだすのを集団で待っている。夕方は特にひどい。ラーメンを食べる顔の前を飛び回るやつがうるさくて、手で払うと十匹ほどが汁の上に浮かんでいた。

 蚊だのアブだのが動物の血を吸うのは雌が卵巣を発達させるのに必要な養分をとるためだそうだ。あんなにたくさんの虫がそれぞれ吸血対象を見つけられるのか疑問だったが、最近の研究は血を吸わなくても産卵ができることを発見したという。それでも血を吸いに来るのはそのほうがいい子ができるからだろう。必要なら山の中でたまに通る動物なんか待っていないで、動物密度の多い、渋谷か原宿へでも下りてくればいいと思う。長い、毛のない白い脚を尻まで出した動物がたくさんいるからだ。けれども、残念ながら、オロロは山紫水明のところにしか住まないらしい。そして、白い脚の動物は汚れた空気が好きらしい。

 オロロを嫌がる人は多いと思うから、オロロの時期に渓に入れば、谷を独り占めできるだろう。そう考えて、ある時一人で抜け駆けをした。同じことを考える奴は、やはりいて、上のほうでも、下流でもサオを持った人間に遭った。オロロもすごいけれど、釣人もたいしたものだ。向こうは種の存続のために必死で、こちらは血を吸われても遊びに必死になる。

註:メジロアブとメグロアブの違いは、頭にサクラの模様があるか、サンマの模様がみられるかの違いで判別する。

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