F フライ (Fly)
魚を引っ掛ける道具。
Fly とは本来ハエなどのように羽根で飛ぶ虫のことを言う。だから、敢えて正確を期すなら毛鉤は Artificial Fly(人工の虫)だが、フライフィッシングの世界ではフライと言えば、毛鉤のこと。
本当はこの項は書きたくなかった。
あまりに広くて、複雑で説明のしようがないからだ。古代マケドニア人が毛糸に鳥の羽を結んで魚を釣り上げて以来、今日まで無数のパターンが作られた。
人間の想像力の及ぶ限りをつくすので、分類整理もままならない。
水に浮かぶフライと沈むフライ。
ファンシー・フライとリアル・イミテーション・フライなどと分けた時代もあった。
ミッジと言って、大きさで分けたり、ニンフと言って虫の成長のステージで分けたりもする。
科学的アプローチの上でできた新素材のいかにも釣れそうな新しいパターンがある一方で、百年以上の間魚を掛けつづけ、どの釣人のフライボックスにも顔を覗かせている古顔の伝統のパターンもある。
魚のほうはちっとも進化しないのに、このフライの進化のスピードはどうだ。
どうも、これは釣人の思い入れの結果のような気がする。
誰かが発明した釣れるフライがあっても釣人の創造力がそこに留まることを許さないのだ。そうして、フライは毎晩進化し続ける。
地球上のあらゆる場所、川の岸で、ログキャビンで、都会の夜のラフロイグのグラスの横で、戦場の司令官のテントの中で、ホテルの宿直室で、新しい虫が羽化する。
虫だけではなく、小魚や、ヒルやネズミまでが作られる。
それらもひっくるめてフライだ。だから、“フライは何使ってる ?” “公魚に似たストリーマーだよ!” という矛盾した会話がなりたつ。
もう、フライの定義など考えるのはやめよう。
それは、単純に“魚を引っ掛ける道具”だ。