M May Fly
英語でカゲロウのこと。直訳すれば『五月の虫』 なぜ五月かというと、カゲロウ属最大のモンカゲロウが五月に出現し、それがカゲロウを代表するからだろう。そのために、3月に出るカゲロウも10月に出るのも、一般的には『五月の虫』という。
モンカゲロウは体長が3センチにもなる。それがいっせいに羽化して水面に浮かぶ姿は、まるでたくさんのヨットが黄色の帆を上げてレースをしているようだ。大きくて、柔らかで、うまそうなこの餌をマスたちが見逃すはずはないから、モンカゲロウがでる頃には大物のマスが浅瀬に寄ってくる。魚が寄れば、釣人が集まる。五月の中禅寺湖では駐車スペースを探すのに苦労する日が続く。
ざんねんなことに、モンカゲロウは五月から六月の初めころまで、年に一度しか出てこない。モンカゲが出た、という風の便りを聞くと釣人はもうじっとしていられない。なにしろ、こんなに大きなドライフライを使う機会などめったにないからだ。
それで、夜中になると8番とか、6番のフックをバイスにはさみ、さらにエクステンディド・ボディイなどを作って、黄色の大きな虫をせっせと誕生させる。春の夜の甘い空気に誘われて、隣家の猫が出す悩ましい声に、ふと我にかえると、そういえば、去年も同じころに同じように巻いた、と思いだす。
普段はあまり出番のないフライのストック用の箱を開けてみると、出てくる、出てくる、押しつぶされてイナゴの佃煮状態のものが顔をだした。あきらかに、消費量より供給量のほうが多いのだ。
湖の釣では木の枝に食われる率も、魚に食われる率も同じようなもので、つまり少なくて、一日に五本もあれば余るくらいだ。それに五月、六月で釣りに出掛けられる日数を掛ければ必要なモンカゲロウのフライの数は即座に計算できる。さらに自分の残りの生存可能予想年数を掛けると一生分のモンカゲロウのフライの量が分かる。そして、数えてみたらストックはもうそれをとっくにオーバーしていた。こういう風に先が見えるというのは悲しいものだ。
とつぜん、ガンジーの言葉を思いだした。“明日、死ぬかのように生きろ。永遠に生きるかのように学べ”
そうだ!明日死ぬかのように釣りにいかねば! そして、永遠に生きるかのようにフライを巻こう!