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C  Creel(クリール)  Can(缶)

クリールは日本語で言えば、魚籠(びく)。

魚籠と呼ぶものは竹で編んであって、四角か丸型。

魚を落とす穴の開いた、やはり竹で編んだ蓋がついていた。

蓋はたいていタコ糸で本体に結んである。

クリールと言えば、アメリカ式の魚籠で、竹の代わりにヤナギの木を使い、縁を皮で補強してある。その皮が蝶番の代わりになって蓋がついている。

腰の上にうまく収まるように微妙なカーブがついて、なかなかいい形をしている。ク

リールは日本でもかなり早くから売られていたから、ヒョットすると輸出用にこちらで作っていたのかもしれない。

ジーパンの上にこれとつけると、フィールド・アンド・ストリームの写真に出てくるようないっぱしのフライフィッシャーになったような気がした。

もっとも、ヒップ・ウェーダーは、滑り止めの草鞋が履けるように爪先が二つに割れた日本式のもので、ベストもチャンチャンコに近い形だから全体としてはずいぶんおかしな恰好だっただろう。

ラテックスのチェストハイ・ウェーダーが出現するのは、それからまだだいぶ先の話だ。
 沢を釣り上がって、イワナがたくさん釣れて、クリールが重くなると腰回りが妙に引っ張られる。

それはなんだか自慢したい気持ちと一緒になって、嬉しい重さだった。

その頃は誰もが腰にクリールをぶら下げていた。

エサ師ではない、フライフィッシャーの身分証だったのだが、たまに手入れの悪いクリールをぶら下げた奴と一緒になると、それはひどく臭った。

柳のものは、使った後、洗って、太陽に晒しておかないと、魚の匂いが滲みついてしまう。

もっともそうなると、魚が一尾も釣れない日でも、魚の匂いはしている訳で、他の釣り人とすれ違う時も、引け目を感じなくて済む、と言った奴がいた。
 サーモンを見付けたければ、Can(缶)の中を探せば間違いない、というのはヘンリー・ビアードとロイ・マッキ―の卓越した意見だが、その頃は河辺の昼食によく缶詰めを持っていった。

コンビーフだの牛の大和煮などというので贅沢をした気になったが、フリーズドライやカップ麺が出現してからは、食べた後の缶が邪魔になるので敬遠されるようになった。

小生が今でも持っていくのはオイル・サーディンのCanだ。

サーモンと違って、こちらは尾頭付きではないが姿は拝める。

プレーンのマフィンをちょっと焼いて、バターの塊を載せ、タマネギの輪切りとオイル・サーディンを挟み、醤油を数滴垂らしてやる。そ

れに熱いコーヒーがあれば、クリールを腰に付けた時のように、釣師ではなくフィッシャーマンになったような気分になる。

ヘミングウェイの『二つの心臓の大きな川』の中でニックが昼食を用意する時、よく読むとサンドイッチに挟むのは生のタマネギだけだ、と誰かが教えてくれた。

さすがにそこまでアメリカ式にはなれないけれど、油イワシにはタマネギの刺激がないと物足りない。
 と、いう訳でCreelのほうは出番がなくなったが、Canのほうはまだ生きている。

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